平成14年度土木学会関西支部技術賞

掲載の記事・写真・図表などの無断転載・使用を禁止します。
著作権は社団法人土木学会関西支部および作者に帰属します。

■ 受賞者 ■
■ 受賞業績内容説明 ■

技術賞
青野ダム多自然型魚道整備事業
兵庫県県土整備部土木局河川整備課
兵庫県阪神北県民局県土整備部三田土木事務所
株式会社建設技術研究所大阪支社
神鋼神戸発電所における海水ポンプピットの設計・施工
株式会社神戸製鋼所
株式会社熊谷組関西支社
高潮から国土を守る「新尼崎閘門」の建設
兵庫県県土整備部
国土交通省近畿地方整備局港湾空港部
電食作用を利用した地中構造物の撤去技術の開発
向谷常松
南條克正
藤林民男
『落差への挑戦』
〜寝屋川北部地下河川 古川取水立坑減勢施設〜
大阪府寝屋川水系改修工営所
株式会社ニュージェック

技術賞奨励賞
JR西日本における新設構造物の品質管理システムの構築
西日本旅客鉄道株式会社
鉄道営業線直下の大断面トンネルにおける情報化施工
−新湊川トンネル工事−
兵庫県神戸県民局県土整備部神戸土木事務所災害復旧室
西松・新井特別共同企業体
並列ケーブルの空力制振対策の開発
本州四国連絡橋公団

▲ページの頭に戻る


業績内容説明
<技術賞>
青野ダム多自然型魚道整備事業
兵庫県県土整備部土木局河川整備課
兵庫県阪神北県民局県土整備部三田土木事務所
株式会社建設技術研究所大阪支社
 青野ダム多自然型魚道は、ダム建設により上下流が分断された生態系の回復を図るとともに、あわせてビオトープを整備してより豊かな水環境を創造するための日本ではじめての試みである。また、ダムに設置する多自然型魚道は、全国的にもあまり例がないため学識者等からなる「青野ダム水環境改善検討委員会」により基本的な方針を決定するとともに自然石を用いた原寸大の水理模型実験、遡上実験を行い設計条件等を決定した。貯水池との連結は、堤体貫通型の閘門方式を採用し、貫通工法はドリルジャンボを使用したSD工法で行った。魚道の総延長は730m、最下流部とダム堤体部との落差は20mである。平成13年度に事業完了し、現在では多数の魚がダムに遡上し効果を発揮している。今後はモニタリングを継続して効果の検証を継続するとともに適切な維持管理運営を行うための検討を進めていく予定である。今回の魚道整備は本ダム上下流域の水環境の保全・創造だけでなく、既存ダム、新設ダム、河川施設の魚道計画にも応用可能であると考えている。
 本事業は、ダムの計画、設計、施工にあたって、住民参加型の管理運営手法を検討した点、土木事業と環境の調和に努力をはらった点が高く評価された。
青野ダム多自然型魚道 全景
青野ダム多自然型魚道 全景
「青野ダム多自然型魚道整備事業」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞>
神鋼神戸発電所における海水ポンプピットの設計・施工
株式会社神戸製鋼所
株式会社熊谷組関西支社
 神鋼神戸発電所(出力140万kW)は大都市ライフラインの自立を目指した「都市型発電所」として建設されたもので、神戸市のピーク電力需要の80%を賄うことのできる大規模火力発電所である。
 本業績は,発電所の主要設備の一つである冷却水取水用の海水ポンプピットの躯体形状や整流工の構造に関して、数値シミュレーションや水理模型実験を駆使した入念な水理設計を実施し、従来に比べてコンパクトで水理性能の優れたポンプピットの実現化を図ったことである。敷地条件により制約された施設内において水面振動を抑制して良好な流速分布を実現化するために、先端部を突出させた4枚構成の導流壁を初めて採用し、ポンプの多様な運転条件に対して常に良好な水理性能をもつポンプピットに仕上げることができた。また、構造物の完成後には流速分布の現場計測を実施し、目標とした水理性能が実機において実現していることを検証した。
 敷地の制約やコストの低減化を背景として、従来に比べてよりコンパクトなポンプ設備実現化の要望は今後増加するものと予測される。発電所のみならず水道施設や工場等のポンプ設備の水理設計において本件で得られた知見の応用と発展が期待される。
 本事業は、種々の制約条件のもと、数値シミュレーション、水理模型実験を駆使した入念な水理設計を実施し、従来に比べてコンパクトで水理性能に優れたポンプピットの実現化を図った点が高く評価された。
神鋼神戸発電所海水ポンプピット全景
神鋼神戸発電所海水ポンプピット全景
「神鋼神戸発電所における海水ポンプピットの設計・施工」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞>
高潮から国土を守る「新尼崎閘門」の建設
兵庫県県土整備部
国土交通省近畿地方整備局港湾空港部
 本事業は、長年に渡り高潮の脅威から尼崎市民の生命・財産を守ってきた第一線防潮ラインの中心的施設であり、日本最大規模の閘門「尼崎閘門」をリニューアルする事業である。
 新閘門の建設にあたっては、
(1)常に防潮ラインを確保、
(2)堤内を出入りする船舶の航行を確保、
(3)限られた水域での施工等の制約があった。
 これらの課題を解決するため、新閘門建設工事では、頭部剛結型二重矢板式締切堤によるドライワーク工法を採用し、締切堤の設計には新しい設計法である「大堀らの方法」を採用して切ばりのない大空間を創出した。また、水頭差12mの大水圧がかかる堤体の安全確認のために最新鋭の現場計測管理システムを開発するなど創意工夫を凝らしながら建設を進め、無事完成した。
 事業半ばには、阪神・淡路大震災に遭遇したが、いち早く完成していた第二閘門によりその耐震性を実証するなど、防災施設としての安全性・信頼性を一層高める結果となった。
 今後は、地域防災の要としてより一層貢献する事を期待されている。
 本事業は、当該地域の住民の生命・財産を守りつつ、現有機能を維持しながら、新しい閘門を建設するために多くの技術を採用し、地域への貢献も多大なものがあったことが高く評価された。
完成した日本最大規模の「新尼崎閘門」
完成した日本最大規模の「新尼崎閘門」
「高潮から国土を守る「新尼崎閘門」の建設」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞>
電食作用を利用した地中構造物の撤去技術の開発
向谷常松
南條克正
藤林民男
 本工法は電食の原理を利用し、柱列式地下連続壁工法等の立坑土留め壁杭芯材をシールド機で直接切削できる状態まで溶解・薄肉化し、鏡切り工を行わず直接発進到達することを可能にするために開発した。
 本工法を京都市交通局、高速鉄道東西線建設工事および大阪市都市環境局、南住吉〜加賀屋幹線下水凾渠築造工事に適用しシールド機で直接切削・発進した。
 電食技術は土留壁杭芯材の直接切削のみならず、建設分野で広く使われている鋼材を撤去する技術として適用可能であり以下のような応用例がある。
(1)地中障害物撤去への適用。シールド掘進路線上に出現する鋼矢板等の撤去は、地盤改良後作業員が切羽へ出て鋼材を撤去していた。本工法では地中障害物(鋼材)を機内より電食し撤去することができる。
(2)地下水流動保全工法への応用。止水を目的とした連続地中壁等の地下構造物は、構造物構築後に地下水流動を阻害する。特に床付け以深の地下水流動保全工法には課題が多く、電食技術により透水層部分に開口部を設け、地下水の流動保全を図ることができる。
 このように電食技術は建設分野への適用範囲が広い技術であり工事費削減、工期短縮に貢献できる。
 本工法は、技術的なアイデアが独創的で斬新であり、また広く汎用性や応用性に期待できる点が評価された。
電飾技術によるシールド機直接発進
電飾技術によるシールド機直接発進
「電食作用を利用した地中構造物の撤去技術の開発」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞>
『落差への挑戦』
〜寝屋川北部地下河川 古川取水立坑減勢施設〜
大阪府寝屋川水系改修工営所
株式会社ニュージェック
 寝屋川流域総合治水対策の根幹に位置付けられる寝屋川北部地下河川において、地表河川の古川から最大15m/sの洪水を、約40m下の地下河川まで安全かつ確実に減勢し、スムーズに導水する施設として古川取水立坑減勢施設が計画された。
 減勢施設の設計にあたっては、水理模型実験を中心とした検討を行い、従来の渦流式と呼ばれる立坑に大きく2つの改良を加えて、日本初の流水拡散型の取水立坑を開発した。
 その改良とは、
(1)従来の渦流式立坑に「狭窄部」を設置することと、
(2)「減勢池の高さを拡大」させることで、これにより流水を拡散し、壁面の摩擦を有効に利用しようというものである。
 これらの改良によって、従来の渦流式立坑に比べて減勢効果が飛躍的に向上し、地下河川への空気の混入が少ない取水減勢施設を実現した。また同時に施設のコンパクト化やコストの縮減も実現することができた。
 古川取水立坑減勢施設の完成により、北部地下河川古川調節池として約2kmの区間が暫定供用を迎え、周辺地域の浸水被害の軽減・解消が図れるものと考えている。
 本事業は、取水減勢施設の開発により、水量、落差、更には用地的に厳しい条件の中での、効率的な減勢施設設置の可能性を拡大し、地域の治水安全度を高める上で非常に貢献した点が高く評価された。
取水立坑減勢施設
取水立坑減勢施設(左:水理模型実験状況、右:下から見上げた様子)
「『落差への挑戦』〜寝屋川北部地下河川 古川取水立坑減勢施設〜」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞奨励賞>
JR西日本における新設構造物の品質管理システムの構築
西日本旅客鉄道株式会社
 コンクリート構造物の施工現場における確実な品質管理の履行と施工情報の維持管理への活用を目的として「建設から維持管理までのトータルな品質管理システム」を構築した。その骨子は次の通りである。
(1)設計段階での配慮として、コンクリート構造物の耐久性に大きな影響を与えるコンクリートの配合や鉄筋かぶりなどの改善を実施した。
(2)施工段階での配慮として、新たな品質管理項目(フレッシュコンクリートの単位水量測定、非破壊検査によるかぶり推定)の制定に際し、試験施工や実験結果を用いて課題の克服や検証を行い、品質管理手法として確立した。また、施工段階での管理項目や管理頻度などについては、必要な要求事項を明確にしたマニュアルを策定し、契約図書で明確化した。
(3)維持管理への配慮として、施工記録が効果的かつ効率的に維持管理において活用されるように情報化技術を活用した電子化を実現した。今回構築した「新設構造物の品質管理システム」は、施工時における品質管理はもとより、将来にわたる維持管理も見据えたライフサイクル管理システムとして先駆的な役割を果たすものであり、構造物の耐久性向上に大いに貢献できるものと期待される。
 今後の社会資本整備の基本となるライフサイクルという考え方で、設計・施工時の管理記録を維持管理に活用する品質管理システムを構築した先駆性・汎用性が高く評価され、奨励賞候補とした。
JR西日本における新設構造物の品質管理システムの構築
「JR西日本における新設構造物の品質管理システムの構築」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞奨励賞>
鉄道営業線直下の大断面トンネルにおける情報化施工
−新湊川トンネル工事−
兵庫県神戸県民局県土整備部神戸土木事務所災害復旧室
西松・新井特別共同企業体
 本工事は、阪神淡路大震災により被災した新湊川の災害復旧事業に伴う河川改良工事の一環として、事業区間内にある既設河川トンネル(湊川隧道)の北側に河積拡大のためにトンネルを新設するものである。
 当トンネルの特徴は、A=144mという大断面であるが、一方で次に示す厳しい条件を克服することが施工上の課題であった。 
(1)土被り13mで鉄道営業線と交差する。
(2)掘削対象土が大阪層群含水未固結地山の互層。
(3)工事区域が閑静な住宅地である。
 これらの課題を克服するため、変位状況をリアルタイムで計測できるシステムを用いて、トンネル上半掘削時の地山変形と鉄道営業線に及ぼす影響を予測し、事前に最適な補助工法を選定するシステムを開発した。
 尚、このシステムは、計測データと影響予測データを比較することにより設計し、施工の妥当性を検証することができるものである。
 さらに、補助工法を合理的に選定できるため工程短縮にも貢献でき、今後の都市NATMの設計施工方法の発展に、寄与することができたものと確信する。
 選考委員会としては、非常に制約を受けた条件の中で、大断面トンネルを完成させた技術力を高く評価し、奨励賞候補とした。
鉄道営業線直下を掘削
鉄道営業線直下を掘削
「鉄道営業線直下の大断面トンネルにおける情報化施工−新湊川トンネル工事−」のより詳細な説明を見る

▲ページの頭に戻る

<技術賞奨励賞>
並列ケーブルの空力制振対策の開発
本州四国連絡橋公団
 近年の長大橋梁の吊ケーブルには維持管理性を考慮して、ポリエチレン被覆された平行線ケーブルが使用されている。一般的に表面が滑らかな円形断面は風による振動の発生が生じやすいため、その様な振動が構造に影響を及ぼさないよう留意した設計を行う必要がある。
 さらに、この様な円形ケーブルが並列して設置される場合、上流側のケーブルから剥離した気流により下流側のケーブルに発散振動が発生することが知られている。これまでの制振対策は、相互のケーブル連結やダンパー設置等の構造的対策が主であり、時間経過に伴う劣化により交換が必要となる例が見られている。
 維持管理費用の低減を考慮した場合、このような空力振動自体が発生しないようにすることが有効であることから、本州四国連絡橋で並列ケーブルを採用している明石海峡大橋(吊橋)と櫃石島橋、岩黒島橋(斜張橋)を対象として空力特性が良好な断面形状の開発を実施した。今回開発をした制振対策は並列ケーブルに発生する空力振動(渦励振、発散振動)の発生を大幅に抑制することが明らかとなり、実際にも明石海峡大橋のハンガーロープに適用している。
 選考委員会としては、柔軟な発想から生まれた技術的アイデアの実現と、かつ簡便・安価で今後の汎用性が期待できる点を高く評価し、奨励賞候補とした。
明石海峡大橋に適用したヘリカルワイヤ
明石海峡大橋に適用したヘリカルワイヤ
「並列ケーブルの空力制振対策の開発」のより詳細な説明を見る

支部トップページ | 担当幹事会のページ | 技術賞のページ